『ビックリマン』ムッシュオニオン回の金田系作画
ムッシュオニオンはかつて存在したアニメスタジオで、
東映動画(現:東映アニメーション)作品を中心に活動していました。(現在は「株式会社すたじおかぐら」がその業務を引き継いでいます)
数々の優秀なアニメーターを輩出したことで知られ、
特に『北斗の拳』シリーズや『魁!!男塾』、『ひみつのアッコちゃん(第2作)』における
羽山淳一さんの活躍には目覚ましいものがありました。
今回はアニメ版『ビックリマン』(1987~89)ムッシュオニオン回でみられた金田伊功さん調の作画について説明します。
ムッシュオニオンの中で『ビックリマン』を担当していた班は同時期に制作されていた
『北斗の拳2』(1987~89)やその後番組の『魁!!男塾』(1988)を担当していた羽山淳一さんを中心とした班とは別班になります(後述の加藤さんは『アッコちゃん(第2作)』(1988~89)では羽山さんの班に参加)。
『ビックリマン』班では三谷節子さんが作画監督を務めており、かわいらしい絵柄が特徴的でした。
表題にあるような金田調の作画が『ビックリマン』のオニオン回でみられるようになったのは、第31話『魯神フッドの恋?』(1988年5月15日放送)辺りからです。
丁度、この辺りの時期から加藤浩利さんがEDにクレジットされるようになるので、下記のお仕事は加藤さんの作画かなと推測しています。
(それ以前のオニオン回にも力の入ったアクション作画がみられるが、こちらは恐らく伊津井厳さんの作画かな?)
『ビックリマン』の加藤浩利さんの作画(推測)
・キャラクター作画
49話『孤独の美形天使』(推測、上2枚)、70話『迷宮を駆ける龍』より(推測)。
ムッシュオニオンには格好いい手を描くアニメーターさんが多く在籍していた。
中でも加藤さん作画と思しき手は少し角ばった形の取り方。
シャープなフォルムで表情も豊か。
63話『ヤマト爆神!誕生』より(推測)。
疲弊し、屈んだ姿勢をとるヘッドロココ。
ポーズのセンスもケレン味が強い。
盾が消える際、一瞬入るエフェクトのフォルムが金田調なのもポイント。
63話(推測)、70話より(推測)。
奥歯の立体感と描き込みは加藤さんと思しき作画に顕著な特徴。
・アクション
49話より(推測)。一角キングが怪虎師の攻撃を交わす一連から抜粋。
オバケ(残像)やタッチ、効果線、金田調のエフェクトを駆使したダイナミックな戦闘描写も、加藤さんと思しき作画ではよくみられる。
同じく49話より(推測)。怪虎師が鞭を振るうカットより抜粋。
1カット内でキャラクターの大きさが大幅に変化する躍動感のある動きに加え、
金田調のエフェクトを挟んで怪虎師の顔がドアップで現れる構成は非常に大胆!
70話より(推測)。
アローエンジェルが十字架に飛び移る動きの中から5枚抜粋。
高跳びのようなダイナミックなアクション。
画像5枚目、キャラがアップになった際の、手などにみられるシャープなディテールにも注目。
・ディテール
49話より。(推測)
一角キングの兜の影が所謂ワカメ影(太い影の隣に細い影をそれに沿わせるような形で配置したパターン)になっているのが分かる。映り込みなど金属表面の質感を表現するために用いられることが多い。
63話より(推測)。
ストーリーの山場でもあるヤマト爆神への変身シーンは恐らく加藤さんの担当。
ワカメ影や、ハイライトの細密さも加藤さんと思しき作画の特徴。
爆神の背後のエフェクトも金田調。
・エフェクト
高密度のエフェクト描写は加藤さんと思しき作画に顕著な特徴。
基本的な傾向としては金田調のエフェクト、鋭利な形状の破片、丸爆発がみられる。
70話より(推測)。
骸骨にエフェクトが変形するカットより抜粋。
切れ込みや、カールしたような形のディテールは山下将仁さん(金田さんの弟子)、
もっと言えば、山下さん的なディテールを取り込みつつも山下さんとは
別の方向で金田調のエフェクトを緻密化させていった田村英樹さんに近いパターンに思える。
飛び地のように配置された三角の飛沫状のエフェクトや、進行方向に沿って伸びる形の直線的なデザインや切れ込みなど、よりグラフィックな形状をとったパターンも特徴。
37話『はるかな次界へ』より(推測)。
飛石を溶岩で冷やす一連から抜粋。カールした形の影が特徴。
この爆発では薄いオレンジの部分と濃いオレンジの部分で煙を構成する一つ一つの小さな煙の立体が表現され、
BL影(黒い部分)によって煙同士が繋がった隙間部分を描写するという形が基本的に取られている。
49話より(推測)。
崩壊する一角キングの城と、崩れた城から一角キングの兜が現れる場面。
加藤さんの作画と思しき破片は、先の尖った鋭利なフォルムが特徴的。破片の数の多さや密度も凄い。
2枚目の画像の煙の影は先ほどと同じくカールした形状で、アウトラインの形に合わせてハイライトが入り、立体感を表している。
70話より(推測)。
煙を構成する一つ一つの球のアウトラインを繋げるような形で薄い赤色部分(ノーマル色)が配置されている。
70話より(推測)。
迷宮が崩壊するシーンより抜粋。
金田調のパターンと丸爆発が複合された表現。
カールするような影の食い込みや、鋭利な破片は先述の画像での特徴と共通する。
42話『全員集合!七助』より(推測)。
エフェクトで表現された鳳凰。
エフェクトが生き物の形をとるパターンは『幻魔大戦』で金田伊功さんが担当した火炎龍が有名。
ビックリマンのムッシュオニオン回でもこのようなパターンが複数回登場する。
70話より(推測)。
70話最大の見せ場がこの光の龍の出現シーン。
まずは金田調のエフェクトが炸裂しているこの部分から抜粋。
前述の田村さん的なディテールも取り込みつつ、定規で描いたような形状のよりグラフィックなパターンで光の龍の出現が描写されている。
同じく70話より(推測)。光の龍が地面を突き破って現れるカットから抜粋。
光の龍のスケール感と、鋭利なフォルムの破片の緻密な描写が素晴らしい。
70話より(推測)。
煙を突き抜けて姿を現す龍。煙が後退すると龍の手に乗った天使たちが見えるというカットから抜粋。
煙、龍のスケール感は勿論、細かい丸に分かれて消えていく煙のフォルムが格好いい!!
(この場面に関しては若干上妻晋作さん的な煙エフェクトとも近いところがあるかも)
・他作品と共通する特徴
先述の特徴は近い時期に加藤さんが参加した他の作品でもみられる。
『ついでにとんちんかん』の39話(1988年8月27日放送、スタジオムサシ回)より(推測)。
ワカメってるハイライトがイカしたパトカー。
『とんちんかん』39話より(推測)。決めポーズのカットから抜粋。
キャラクターの手に対するこだわりもビックリマンと共通する特徴。
ポーズの取り方も鋭角的でシャープな路線。着地時に入る効果線もポイント。
『とんちんかん』39話より(推測)。笑いダケの粉末を撒くカットから抜粋。
加藤さんと思しき奥歯の描き方。影面がカールした丸煙や小さい球状の煙もビックリマンと共通。
1カットでキャラクターに寄ったり、引いたりするカメラワークもダイナミック。
『とんちんかん』39話より(推測)。
キノコの粉末の煙。こちらもカールした影。
こちらは『魔法少女サリー(第2作)』の9話(1989年12月4日放送、ムッシュオニオン回)より(推測)。
手や爆発の描き方に共通した特徴が見られる。
『ジャンケンマン』9話(1991年5月30日放送?、スタジオ九魔回)より(推測)。
ジャンケンマンの手はビックリマンと共通する格好良い形の取り方。
ジャンケンマンのアイテムにもワカメ状のハイライトがついている。画像3枚目の落とし穴の内部の影つけもシャープ。
ジャンケンバリアではじき返される丸太の動きもタッチが入ってダイナミック。
これらの特徴を踏まえた上で『勇者エクスカイザー』(1990~1991)の高谷浩利さんのメカ作監回を見てもらえば、
ビックリマンの加藤さんと似た特徴があるのが分かると思う。
上は、唯一高谷さんが原画でもクレジットされていた(※1)『エクスカイザー』の21話『燃える映画村』(1990年6月30日放送、スタジオ九魔回)より、ゴッドマックスの必殺技ゴッドバードアタックのシーンより抜粋(推測)。
シャープなラインの金田エフェクトの描写や、エフェクトの鳥のディテールはかなりビックリマンの加藤さんっぽい。カールした部分や切れ込みの入り方、細長く緩くカーブした三角のようなディテールは特によく似ている。
※1.クレジットされてないだけで他の回も原画自体は担当されてる気がする。
とりあえず、調べられた範囲での加藤浩利さんの参加作品リストが下のもの。
■ゲゲゲの鬼太郎[第3作](1985~1988) 動画 9話
■忍者戦士飛影(1985~1986) 動画 22話
■銀牙 -流れ星 銀-(1986) 動画 2話
■ウインダリア(劇場/1986) アニメーター
■マシンロボ クロノスの大逆襲(1986~1987) 原画 32話
■ビックリマン(1987~1989) 原画 31話 37話 42話 49話 56話 63話 70話
■ついでにとんちんかん(1987~1988) 原画 39話
■ひみつのアッコちゃん[第2作](1988~1989) 原画 2話 21話 28話 35話 41話 48話
■名門!第三野球部(1988~1989) 原画 3話
■魔法使いサリー(第2作)(1989~1990) 原画 9話 11話
■ANGEL(OVA/1990) 原画
■ジャンケンマン(1991~1992) 原画 9話
所属スタジオの流れとしては、みゆきプロ→ムッシュオニオン→スタジオ九魔だと思われる。
みゆきプロ時代の作品に関してはクレジットに名前が出ていないと思われるものも多い。(名前出てないけど『ハイスクール!奇面組』の79話にはそれっぽい作画がある)
謎の多い『勇者エクスカイザー』以前の高谷浩利さんの作画を紐解くカギにもなるとも思うので、
興味がある方は加藤さんの参加作品をチェックしてみて下さい。