さすがの猿飛の志田正博さんの作画(推測)
志田正博さんは80年代から現在に至るまで、長年活動を続けているベテランアニメーターです。
(90年代末から近年までは志田ただし名義でクレジットされることが多い)
志田さんの80年代の代表作には『GUーGUガンモ』(1984~1985)があります。
志田さんはスタジオジャイアンツ作画回の作画監督を担当し、かわいらしいキャラクター作画と、コミカルなキャラクターのアクションで、大いに存在感を発揮しました。
サムネイルにある劇場版『GU-GUガンモ』(1985年公開)の予告編は志田さんの作画によるもの。
今回触れる『さすがの猿飛』(1982~1984)は『ガンモ』の直前に志田さんが参加した作品です。
『ガンモ』に見られるようなかわいらしいキャラクター表現や、コミカルなアクションの原型がこの作品ではみられます。
本作は全69話の長期のシリーズで、定期的に志田さんが当時所属していたスタジオジャイアンツの作画回がありました。
ジャイアンツには当時摩砂雪さん(『新世紀エヴァンゲリオン』などで著名)が在籍しており、志田さんの作画と合わせて作画面で本作を大いに盛り上げました。
※下記の担当パートは推測に基づくものです。間違っている可能性もあるのでご了承ください。問題がある場合は訂正します。
■ かわいらしいキャラクター作画とデフォルメ表現
14話「うそォ! 肉丸が雪男!?」、29話「宿命の対決!! 肉丸VSニントン」より(推測)。
大きくてくりっとした目は志田さんのキャラクター作画の大きな特徴。
9話「戦国猿飛秘話」、14話「うそォ! 肉丸が雪男!?」より(推測)。
志田さんと思しき作画はキャラクターの表情が非常に豊か。
口を大きく開けたり、目の形が大きく変わったりという表情の大胆な変化がありながらも、可愛らしく見えるようなバランスでデザインされている部分が、個人的に好きな点。
26話「さらば! さすらいのニントン」より(推測)。
忍豚の群れに巻き込まれてボロボロになった魔子。
こういったギャグが入ったシークエンスでも面白さと可愛らしさを両立させた絵がみられる。
後方の煙エフェクトは当時流行りの金田伊功さん的なラインを取り入れたデザインでケレン味がある。
ここで、同じくジャイアンツ作画回で活躍していた摩砂雪さんのキャラ作画との比較を。
40話「肉丸inスペースウォーズ」より。摩砂雪さんと思しき作画(推測)。
志田さんと比較すると、頭身が高く、目が小さめに描かれているのが分かる。
■コミカルなアクション
29話「宿命の対決!! 肉丸VSニントン」より(推測)。
オバケ(残像)を使ったコミカルなアクションはこの時期の志田さんの大きな特徴。
キャラクターのポーズのシルエットが大胆かつハッキリと明快なラインにまとめられている点もポイント。
こちらも29話「宿命の対決!! 肉丸VSニントン」より(推測)。
一連の動きから抜粋。
こちらもハッキリとしたシルエットのポーズがみられる。
動きの中で、大きくポーズ(シルエット)が変わっていくことによってコミカルな動きが表現されているのが分かる。
これでもかというくらいに開いた大口のデフォルメも面白い。
上記のシーンで、学園長(魔子の父)が読んでいた本。
このキャラクターも恐らく志田さんの作画。
大きく、くりっとした目が特徴的。
手の表情も上手く立体的な特徴を捉えながらスッキリとしたラインにまとめられているのがわかる。
■エフェクト
9話「戦国猿飛秘話」、14話「うそォ! 肉丸が雪男!?」より(推測)。
ビームやショックといったエフェクトでは先に触れた煙エフェクトと同じく、
こちらは煙エフェクト。26話「さらば! さすらいのニントン」より(推測)。
同じくジャイアンツ作画回に参加していた摩砂雪さんの煙エフェクトと比較するとシンプル目なフォルムなのが分かる。
参考に19話「決戦!! スパイナー対忍びの者」 より、摩砂雪さん作画と思しき爆発(推測)。
比較するとディテールの違いが分かりやすい。
■ショックコマ
上からそれぞれ14話「うそォ! 肉丸が雪男!?」、26話「さらば! さすらいのニントン」、14話より(推測)。
このようなショックコマは、爆発やアクションの途中に一瞬だけ表示されることによって画面に強烈なインパクトをもたらします。
志田さんの場合は色の使い方も込みで大胆なパターンがみられる。
■モブキャラクター
26話「さらば! さすらいのニントン」より(推測)。
モブキャラクターにおいても可愛らしいキャラクターを志田さんは描いている。
『GU-GUガンモ』のつくねらしきキャラクターが混じっている。
29話「宿命の対決!! 肉丸VSニントン」より(推測)。
先ほどのキャラクターと比較すると少しリアルタッチなキャラクター。
男性キャラのポーズや顔の角度には湖川友謙さん的な立体感やムードも感じられる。
■ベンチ投げ
29話「宿命の対決!! 肉丸VSニントン」の魔子がベンチを投げるカットは恐らく志田さんの作画(推測)。
この一連のカットには志田さんのダイナミックさが出ていると思う。
下記は一連の動きから抜粋したもの。
『幻魔大戦』(1983年公開)のようなオーラの描写。
グイっと力を入れてバンザイのポーズをとるとエフェクトが炸裂する。
こちらも金田調のパターン。一瞬、背景が赤になって明滅するのがアクセントになっている。
グッとカメラが寄っていく。顔のデフォルメが凄まじい。
そのままベンチのアップになり、回り込んで煙の中から魔子が現れる。
大胆な構成のカメラワーク。背後で炸裂するエフェクトにもケレン味がある。
そのままカメラが顔のドアップまで寄っていく。
アオリの顔や影つけにはやはり湖川さんの影響が感じられる。
大胆なパースの動きで画面全体がベンチに。ここまでの一連を1カットでみせている。
画面全体を覆うベンチからそのまま次カットのベンチが木に激突するカットに繋がっていく迫力のある構成。
『猿飛』のジャイアンツ回は各回とも摩砂雪さん、志田さんの作画ががっつりまとまった形で見られるのでおススメ。ただ、クレジットされている回の中にはクレジット間違いと思しき回や総集編もあるのでそこは注意。
上記の回以外だと特に64話「大奥いじめていじめて物語」に志田さんっぽい絵がいっぱいあったと記憶している。
あと、当時の土田プロ作品は作画の枚数制限が緩いので、東映動画作品で明確な枚数制限があった『ガンモ』とは作画面のアプローチにも違った部分が見られると思う。
『猿飛』はジャイアンツ回以外にも、アニメアール、あにまる屋、じゃんぐるじむ、カナメプロなどの担当回に作画的なみどころがある回が多いので、そちらも必見。
いずれは『ガンモ』の志田さんでも記事が描ければいいかなと思ってます。
WEBアニメスタイル_アニメの作画を語ろう_animator interview_井上俊之
上記の記事では同じく『ガンモ』で大活躍した井上俊之さんが志田さんについて語っているので、興味があれば本編と合わせて見ていただければ。