Zガンダムの越智博之さんの作画(推測)
越智博之さんはアニメ演出家、アニメーターとして現在も活動されているベテランです。
AIC所属時代にはOVA作品の作画監督や『アミテージ・ザ・サード』『太陽の船ソルビアンカ』の監督としても活躍されました。
越智さんが若手時代に参加した作品に『機動戦士Zガンダム』があります。
当時越智さんは北爪宏幸さん(『Zガンダム』メインの作画監督)主宰の「有限会社スタジオぱっく」所属で原画マンを始めて間もない時期でした。
しかしながら、越智さんが作画を担当したと思しきメカの作画には同時代のメカ作画と比較してもあまりみられない特徴が多く、先進的と思える要素もあります。
当時の越智さんの作画に関する情報としては、当時同僚だった仲盛文さんのTwitterより、
MSマラサイの降下シーンを本猪木浩明さんと共同で担当されたこと、
ご本人のTwitterより『機動戦士ガンダムZZ』のZZガンダムの合体シーンを担当されたことがそれぞれ判明しています。
下記は上の情報をもとに越智さんの参加回をチェックしていったところ、
恐らく当時の越智さんのスタイルはこうだったのではないかという仮説です。
上の情報以外はソースが無い推測になるので、参考程度に考えてください。
・立体感
19話『シンデレラ・フォウ』の終盤より(推測)。
『Zガンダム』のメカ作画には、ケレン味を強調したものや、パネルラインなどのディテールを描き込んでいくものもあれば、
単に絵崩れを起こしているものもあるといった具合に、良くも悪くも多様な方向性がみられた。
越智さんはこの中でも特に、立体的で端正なメカ作画を得意とされていたように感じる。
11話『大気圏突入』より、仲さんのツイートを元に推測した箇所。
面を意識した立体的な描かれ方(少し箱っぽい形の取り方)のリックディアス(左)。
後述する、ポイントを絞って配置された細かなディテールやBL影、棒状のハイライトといった特徴もみられる。
同じく11話『大気圏突入』より(推測)。前述の画像と同じカットの百式。
ビームライフルの描き方に注目。
銃口に対して正面側、しかも斜め向きに描かれていることがわかる。
このような角度では3次元的な奥行を圧縮してとらえて、2次元の絵に起こす必要があるため、
画像のように違和感なくかつ立体的に描くためには技術力が求められる。
また百式(画面中央)にも前述のリックディアスと同じように棒状のハイライトが描かれていることが分かる。
・細身のプロポーション、ポーズ
26話『ジオンの亡霊』の終盤より(推測)。
越智さん作画と思しきメカは比較的細身のプロポーションで描かれていることが多い。
腕のポーズにも特徴が見られ、2枚目の右上のZガンダムのように腕を内側に捻り込むように曲げて、手首にも角度をつけるといったパターンが散見する。
46話『シロッコ立つ』より(推測)。
こちらのハイザックの腕やライフルの角度にも上と同じような特徴がみられる。
・BL影
11話『大気圏突入』(推測)、23話『ムーン・アタック』より(推測)。
BL影(黒い影)の描写も越智さんと思しき作画では特徴的。
面や隙間になる部分を意識してBL影がつけられているのが分かる。
『Zガンダム』では佐野浩敏さんや松尾慎さんもBL影を駆使したメカ作画で気を吐いていた。
佐野さんも隙間部分にBL影を置くという手法を用いているが、
違いとしては越智さんが立体表現を重視している感じで、
佐野さんはどちらかといえば質感や絵としての見栄えを意識した路線という風に自分は思っている。
46話『シロッコ立つ』より(推測)。
ジ・Oの口の周辺や、襟?、胸部の下側にBL影が配置されることによって、立体感が強調されている。BL影に限らず、越智さんと思しき作画は立体を意識した影や直線的なパターンの影が多くみられるような気がする。
26話『ジオンの亡霊』より(推測)。
メカのエッジにあたる面にBL影を置く手法も越智さんと思しき作画にはみられる。
『ガンダムZZ』、ZZガンダムの合体。越智さんの作画と判明しているカット。
こちらでもエッジや隙間部分にBL影が配置されていることが分かる。
・ディテール表現としてのBL影
11話『大気圏突入』(推測)、19話『シンデレラ・フォウ』(推測)、ZZガンダムの合体より。
MSのカメラアイやスコープのディテールの表現としてもピンポイントでBL影が用いられている。
メカのディテールに関してもそうだが、いたずらに情報量を増やすのではなく、
ピンポイントで情報量を集中させる手法がとられているのが先駆的。
これとは対照的に『Zガンダム』ではメカ作監の内田順久さんが止めのカットや版権イラストで、
パネルラインのディテールを細かく描写する手法をとっていたが、こちらはこちらで格好良かった。
・棒状のハイライト
11話『大気圏突入』より(推測)。
ハイライトを棒や線状に描くのは越智さんと思しき作画(特に初期)に散見する特徴。
こちらも過剰になりすぎずポイントを絞って描かれているのが分かる。
棒状ハイライトは、時期的にはZガンダムより後の86年頃から、
磯光雄さんや大城勉さん安藤義信さんといったネオメディア、スタジオ絵夢系のアニメーターさんがよく用いた表現でもある。
30話『ジェリド特攻』より(推測)。人物に棒状ハイライトが用いられた例。
照り返しの表現としてピンポイントで棒状ハイライトが使用されている。シャープな印象。
50話(最終話)『宇宙を駆ける』より(推測)。金色のMS百式のハイライト表現もアニメーターさんによって千差万別。
最終話の越智さんと思しき箇所では、やはり直線状のパターンが多くみられる。
今回はいつも以上に推測多めなので情報として不正確な部分があるかも。
とりあえず現段階での仮説なので、問題あれば訂正します。
『ZZ』の越智さん参加回も意識して見ていたわけではないので改めてチェックせねば。