セーラームーンR3話の小倉陳利さん作画(推測) その2
とりあえず、前回のづづきから、
今回は「セーラームーンR」3話を中心に「美少女戦士セーラムーン」40話、「平成天才バカボン」21話を交えて、小倉さん担当と思しき箇所の特徴的なポーズ作画やエフェクト、破片を解説していきます。
■ポーズ
小倉さんの特徴が最も出ているのがポーズのセンス
腕の曲がり方に注目!
手首の関節と肘の関節が直角に近い形で曲がっている
頭が小さく頭身が高めになるのも特徴
■アクション、タイミング
重心移動を強調した動きは小倉さんの特徴の一つ。
「らんま1/2」(熱闘編含む)などで、同時代の他のアニメーターさんにもこのような傾向の動きがよく見られるので、当時のトレンドなのかもしれない。
東映作品は枚数制限があるため目立った形では出てこない場合も多い。
倒れていた敵が起き上がる動き。一連の動きの中から起き上がった後~動き終わりまでの絵を抜粋。
〇で囲ってある絵が原画ポジションと思しき絵で、他は動画と推測できる。
(原画は動きの変化するポイントに位置する絵で、動画は原画と原画の間を繋ぐ絵)
※タイミングに関しては今回はコマ数を考慮せず、絵で判別可能なタイミングに関してのみ触れます。ご了承ください。また上の番号は説明のため便宜上つけたもので、実際の動画番号ではありません。
①~④、⑤~⑧の間は動画が入っているのに対して、原画④と⑤の間には動画が入っていないことが分かる。
これには、一連の動きの中に、動画を入れてタメ(動きがゆっくりになる部分)を作るところと、中なし(動画を入れず原画だけで動きをつなぐ)で一気に動きが飛ぶところを作ることによって動きのタイミングに緩急をつける効果がある。
また①~④の場合は原画④、⑤~⑧の場合は原画⑧といった具合に、後の番号の原画と似た形の絵が動画になっていることが分かる。これは後ヅメと呼ばれ、動画を動き終わりの原画に寄せて描くように指定することによって、動き始めは速く、動き終わりはゆっくりという風な動きのタイミングを作る技法。これにも動きに緩急をつける効果がある。(※小倉さん固有の技法という訳ではないので注意)
バランスを崩した時のポーズのセンスも絶妙。原画のポーズで重心の移動を描いた上で、動画を後ヅメにすることよってタイミングに緩急をつけ、重心移動の動きを強調していることが読み取れる。
- エフェクト
■プラズマ
その1
線状のエフェクトにデザイン的な図形のようなパターンが組み合わさったもの。
そのままの形ではないものの、金田伊功さんからの影響も感じられるフォルム。
その2
こちらのパターンは金田さんが原画を担当された「天空の城ラピュタ」の龍の巣のシーンの電撃と似たフォルム
「平成天才バカボン」21話より、小倉さん担当と思しきシーン。
金田さん的な電撃のフォルムがキャラクターの舌の動きに活かされている。
■破片
効果線と一緒に出た破片
大きく角ばった破片と小さい破片が複合している
シルエット的な処理
無印「美少女戦士セーラームーン」40話より。止めのカットだが躍動的。
複数の破片を塊として処理してシルエットを格好よくまとめるのは磯光雄さん的かも。
砕け散る木。無印40話より。こちらは鋭角的なフォルム。
複数の破片を塊としてとらえる点とシルエット的な処理は共通する特徴。
「美少女戦士セーラームーンSuperS」23話(通算150話)のBパートの小倉さんパートと思しき戦闘でもこういう破片があった覚えが。
■オバケ
オバケは残像を作画で表現したものです。
小倉さんと思しき作画での使い方はよりエフェクト的にオバケを解釈したものになります。
無印40話より小倉さんのオバケの使い方は非常にダイナミック。
木の陰に隠れるうさぎがエフェクトと化している。
「平成天才バカボン」21話より
こちらもエフェクトと化したキャラクター
無印40話のセーラー戦士集合バンク。
1カットでくるくる回り込みながらセーラー4戦士が登場する豪華な作画。
Rの3話でも使用された。
ジュピターの腕が動いた後のオバケが金田さんのエフェクトようなフォルムで表現されている。
本題とは関係ないけど、前述のカットにはキャラクターの顔は安藤さんの修正と思しきものとモロに小倉さんっぽいものが混在。上3枚は安藤さんの修正が入っていると思しき絵。
マーズは小倉さんの特徴がモロに出ているような
オバケのほかにも遠近感を強調したダイナミックなパース感覚、
顔の影つけ、緩急のついたタイミング、直角っぽい曲がり方の腕、
無修正と思しき箇所のちょっと緩い感じの絵柄など小倉さんと思しき特徴がはっきりと出ている。
美麗だったり正統派に格好良さを追及するタイプだったりの作画も良いんですが、
この頃の小倉さんのような、緩いところもありつつアニメならではの面白さを盛り込んでいく作画は素晴らしいなと思います。
以上、小倉さんと思しき作画の特徴の解説でした。
以前、小倉さんのOHプロダクションでの直接の後輩にあたる石浜真史さんがアニメスタイルのイベントで「小倉さんが『俺は上妻晋作になる!』と言ってセーラージュピターらしきもの?を描いていた」という話をされていたけど、自分は「セーラームーンR」3話のことを言っているんではなかろうかと予想している(笑)。
「きんぎょ注意報!」のOHプロ回のNC小倉さんと思しき作画や石浜さんの作画を特集してみるのも面白いかもというのは書いていて思った。
「美少女戦士セーラームーン」第40話 湖の伝説妖怪!うさぎ家族のきずな(劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」公開記念!90年代TVアニメ3シリーズ全話配信!)
また小倉さん参加回(OHプロ回)の「美少女戦士セーラームーン」40話がYoutubeで公式配信中(2020年5月18日現在)なのでぜひ見てみて下さい。
後半のうさぎと家族が襲われる辺りからの戦闘が小倉さん作画だと思うのですが、
小倉さんらしいダイナミックなパース感のレイアウトがまとまった形で見られますよ!
前述の4戦士集合のカットもこの回が初出だったかと。
次回はAプロでなんか書ければなあ
セーラームーンR3話の小倉陳利さん作画(推測) その1
小倉陳利さんは「新世紀エヴァンゲリオン」「フリクリ」をはじめとする
ガイナックス関連作品での活躍で特に著名なアニメーターで、
近年はTRIGGER制作作品で絵コンテマンとしても活動されています。
今回は小倉さんの作画について90年代前半はこのようなスタイルだったんじゃないか?という特徴(仮説)を
「美少女戦士セーラームーンR」3話の小倉さん担当と思しき部分から解説していこうかと。
※確定的なソースがある情報ではありません。あくまで憶測ですので参考程度に。
- 金田系的な特徴
ジブリ作品でも活躍された伝説のアニメーター故・金田伊功さん。
氏の独創的なスタイルは多くの模倣者を産みました。
小倉さんの作画にも金田さん的な傾向が幾つかあります。
■レイアウト
遠近感を強調したケレン味の強いレイアウトは金田さんの大きな特徴の一つ。
画像は「セーラームーンR」3話の小倉作画と思しきパートから。
奥のセーラームーンと敵に対して、手前側のセーラージュピターが大きく描かれている。ジュピター自体も左腕(手前側)と右腕(奥)には大きさに大きな差があり、広角レンズで撮った画のようにデフォルメされている。
金田さん風とは少し違うけど、小倉さんの特徴が出ているケレン味の強いレイアウト。
元のコンテの絵がどのようなものだったのかは分からないのであくまで参考程度に。
奥のジュピターの大きさを小さめにとって、 手前の敵とセーラームーンを立体的に描くことによって広角レンズ感を出している。
■効果線
キャラクターの動きに合わせて効果線が入るパターンは「ザンボット3」等の70年代の金田さんや、
そのライバル的存在であった70年代の友永和秀さんの作画によく見られる。※1
叩きつけられるセーラームーン。 小倉さんと思しき作画でもこの効果線のパターンがみられる。シルエット的に処理された破片にも注目。
- キャラクター作画
■影つけとしわ
この時代であっても、通常はキャラクターの顔のアップには作画監督の修正が入る場合が多い。
だだこの回は小倉さんの特徴がよく出ているカットも多いような。
作画監督の安藤正浩さんによる修正が強く出ていると思しきカット。 頬の柔らかなラインが特徴的なプニッとした絵が良い。
顔の目元から上に大胆に入る影は小倉さんと思しき作画によくみられる特徴。安藤さんによる部分修正は入ってそうな絵。
こういったパターンも。立体を意識したライン。これも顔の上下を分ける形で影が入っている。
■敵の顔のしわ
筋肉や骨のラインを意識したしわがシャープな形で入っているのがわかる。
こちらも影は目元から上についている。
■手
こちらもシャープで角ばった感じの形の取り方。カギ爪のような手の表情をとることも多い。
とりあえず続きは次回で。
小倉さん担当と思しき箇所の特徴的なポーズ作画やエフェクト、破片を「セーラームーンR」3話を中心に「美少女戦士セーラムーン」40話、「平成天才バカボン」21話も交えて解説していく予定。
※1 効果線を用いる手法は金田さん達から更に源流をたどると「ど根性ガエル」などのAプロ(現:シンエイ動画)の作画につながる(筆者が知らないだけでもっとたどれる可能性もあるかも)。
「ドラえもん」シリーズで知られる芝山努さんや、近年も「ふるさと再生日本の昔ばなし」で活躍された小林治さんの作画がこのAプロ作画の代表例。
これは芝山さんや金田さんの影響を受けた今石洋之さん(「グレンラガン」「キルラキル」「プロメア」の監督)の原画にもよく見られる特徴。